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絵空事の切れ端

                        好きなものは好きって言おう

比企谷八幡という人間を見直した話(やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。8巻感想)


 ラノベの感想を単品で上げるのは本当に久しぶりなのだけど、あの衝撃の7巻からどうなったのか気になりすぎて発売日に即読んで「あ〜」ってなって、その「あ〜」が原動力になって感想を書くに至りました。感想なんてそんなものだよね。
 結論から言っておくと、とてもおもしろかったです。この巻を読んで改めてこの短い高校生活でしかあり得ない「奉仕部」という人間模様がどういう顛末を迎えるのかこの目で確かめたくなりました。
 そんな「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」最新刊の感想です。


やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。8 (ガガガ文庫 わ 3-13)やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。8 (ガガガ文庫 わ 3-13)
渡 航 ぽんかん8

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 まず前提として、おれはこの物語における比企谷八幡という主人公が全然好きになれなかった。特に6巻の文化祭と7巻の修学旅行における八幡の解決の仕方(結局解決になってないけれど)は「なんでそういうやり方しかできないんだ」と思った。しかも躊躇いもなく。「ぼっち」という学校社会でのポジションにかこつけて、自分がどれだけ傷つくこうが誹りを受けようが構わないと「損な役回り」に慣れきった姿勢が、それを他人から指摘されても「憐れみ」と決めつける思考が本当に嫌いだったし、それがカッコいいとも思わなかった。今回の選挙管理委員会もそう。なにが最も適役で、最も効率がいいだよ。


 理性の化物。
 この巻でゆきのんの姉である陽乃さんが、これまでの八幡を形容した言葉なんだけど、これがすっっっごい腑に落ちた。それを言ったのが陽乃さんっていうのもあるけど、感情の対義語の究極が八幡の人間性を形成してると思うと、その言葉にびっくりするほど「なるほど」って読んでて感じた。本音を隠した薄っぺらい言葉、本心の上から貼り付けた表情、そしてその仮面の笑顔から滲み出る感情。他人の内に秘められた悪意を恐れる故にそれらすべての裏を読み、誰に対しても予防線を張らずにはいられない八幡を、たった一言で如実に映す表現はないと思う。
 ラブコメや青春モノは大半が自分の感情をむき出しにして、ぶつかり合ったり寄り添ったりするものだけど、思えばこの作品にそんな感情論めいたものは一切なかった。だってそんなものは本来やっても無駄だから。本音をぶつければ分かり合えるなんて都合のいいものはないから。この作品は『誰かがいい思いをすれば、その分だけ他の誰かが割を食う』、八幡のそんな言をまさしく地でいく後味の悪い展開の連続だった。みんな幸せハッピーエンドなんて馬鹿げた幻想はこの物語においては存在しなかった。
 個人的にはやっぱり感情がストレートにぶつかり合う青春劇の方が好みだけど、こういうフラストレーションが溜まるものもたまには悪くないのよね。というより他に例が少ないし、こういう方向性で完成度が高い作品は俺ガイルくらいしか思いつかない。他にもあったら教えてほしいくらい。


 で、その理性の化物が初めてその考え方を改めた。
 やり方はかなり際どいものの結果として誰も傷つかず、空中分解寸前だった「奉仕部」を本来の姿に戻した結末はじんわりときた。「奉仕部」を通じて関わってきた人たちの知恵や力を借りて、他人に頼ることをようやくやってのけた八幡には熱いものがあったよ。ましてやそれがゆきのんや結衣のためなんてねえ。そしてその焚付け役としてこのぼっちと15年間付き合ってきた妹の小町が今回のMVPでしょう。今回で小町のこと好きになった人多いんじゃないかなと思うくらいの立ち回りだったし。この勢いでウチの妹もCV悠木碧になってほしい。なんでもする。
 それからもうひとつ八幡を見直した個人的な理由として、結衣のことを『素敵な女の子だ』と言い切ったこと。これは見直したというよりは、嬉しかったが近いかな。なんかわからないけど読んでる時すごい嬉しかったんだよなあ。皮肉でもなく、飾った言葉でもない澄み切った率直な一文がやたらと心に残ってて、とにかく良かった。「ちゃんとわかってるじゃん」って気持ちになった。


 ラノベを読むモチベーションとして主人公が好きになれないっていうのはかなり痛手のはずなのに、それでもどうしてここまで読んできたのかといえば、長々と語ってきたけどひとえにこの作品でしか味わえないものがたくさんあったからだと思う。
「奉仕部」は表面上は元の形に戻ったけど、上辺だけの馴れ合いでなく『本物』を求めるゆきのんとの関係はいまだ拗れたまま。得体の知れない陽乃さんもいるし、まだまだ波乱は続きそう。
 もうこの話はただのラブコメなんかじゃない。自分の在り方を求める物語だよ。