絵空事の切れ端

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無駄のなかに意味はなくとも(キミの青春、私のキスはいらないの?感想)

 

 日々の業務お疲れさまです。絵空です。

 2021年初めての更新はラノベの感想記事になります。エンタメすら時間に追われるようになった現代の娯楽は移ろいも激しく、1冊あたりに時間がかかるラノベはめっきり読まなくなってしまいましたが、たまに発作的に読みたくなるあたりまだラノベ読みとしての性が抜けていないかもしれないですね。

 

 そんなこんなで浦島太郎状態の私が『最近のラブコメ』を堪能するべく手に取った、『キミの青春、私のキスはいらないの?』の感想になります。やっぱりありふれたことをありふれた言葉で表現してくれる青春小説が好きだ思わされる一冊でした。

  気になる方は続きからどうぞ。

 

キミの青春、私のキスはいらないの? (電撃文庫)

 

 完璧主義者を自負し、医師を志す俺、黒木光太郎は苦悩していた。
 完璧な人生にはキスが必要なのか……いや、恋愛もキスも俺を惑わせるものに違いない!
 そんなときに出会ったのは「誰とでもキスする女」と噂される同級生の日野小雪。ひょんなことからこいつと、「ある勝負」をすることになったんだが――

「ね、チューしたくなったら負けってのはどう?」
「ギッッ!?」
「あはは、黒木ウケる――で、しちゃう?」

 誰がキスなんか! と思いつつ。俺は目が離せなかったんだ。俺にないものを持っているはずのこいつが、なんで時折、寂しそうに笑うんだろうか。
 ――非リア、ヤリチン、陰キャ、ビッチ。
 この世には「普通じゃない」ことに苦悩する奴らがいる。
 だが――それを病気だなんて、いったい誰に決める権利があるんだ?
 全ての拗らせ者たちに処方する原点回帰の青春ラブコメ

 

 

『最近のラブコメ』を読みたくて手にとったけど良い意味で期待を裏切られた。

 本作はヒロインの小雪とどうなりたいかというよりは、無駄なこと・無意味なものを嫌う主人公の光太郎が小雪と出会った自分にどういう意味を見い出すかに焦点を当てる、イタくて痛い青春小説になります。おそらくこじらせた人間ほど深く刺さりますが、それをも肯定してくれるような余韻が魅力です。

 

高校生にもなってキスしたことないって病気じゃない? 

  というバズリツイートがきっかけで物語は動き始める。べつにキスでなくとも自分が持っていないものや、考える余地すらなかったことを世間一般で『普通』や『常識』とされている事実は、大人になってもなかなかすぐには受け入れがたいことだと思う。それがまだ十代の高校生ともなればなおさらで、『病気』というレッテルは彼らに重くのしかかる。

 

 完璧を目指す光太郎は小雪との勝負を利用してこの『病気』を克服しようとするが、無駄なことや無意味なものを愛する彼女と過ごすうちにそんな考えはなくなっていく。完璧を目指すために切り捨てたものと向き合って、『普通』ではないことを受け入れて、距離ができた小雪を追うラストの疾走感の気持ちよさったらなかった。青春小説はこういうのでいいんだよ。

 

 イラストレーターはラノベの仕事はこれが初めてだというあまなさんです。

 久しぶりの表紙買いだったので、そういう意味でもいい仕事だったと思います。