絵空事の切れ端

                        好きなものは好きって言おう

許容、或いは拒絶する勇気(天才少女Aと告白するノベルゲーム感想)

 

 日々の業務お疲れさまです。絵空です。

 本日はなんと『安達としまむら7』から約3年半ぶりとなる単品のライトノベル感想です。久々にラノベ読んだら急に書きたくなったので書きました。ここって元々ラノベの感想を書くためのブログだったんですけどご存知でしたか……? おれは昨日まで知りませんでした。

 

 というわけで今回は『天才少女Aと告白するノベルゲーム』の感想記事です。

 『リンドウにさよならを』『トリア・ルーセントが人間になるまで』『彼女のL』といい、もはや三田千恵作品のファンなのかもしれません。本当にこの人が書く青春×ミステリが余韻含めて好きすぎる。

 

 それでは気になる方は続きからどうぞ。

 

天才少女Aと告白するノベルゲーム (ファミ通文庫)

 

 

バッドエンドの先は優しく、せつない――。

大好きなフリーゲーム制作者Aに会うため、桜山学園ゲーム制作部に入った水谷湊。しかしAと思われる部長の菖蒲は不登校になっていた。彼女の幼馴染みで学園きっての変わり者由井と、菖蒲が学校に来るよう企画をたてるも不発に終わってしまう。大人しくゲーム作りに励む湊のもとに、ひとつのノベルゲームが送られてきた。『バッドエンドを探せ』と題されたゲームには菖蒲と部員のトラブルが綴られてゆく。これは告発? それとも――。

 

 

 虐待されていた母親から離れ、引き取られた先でも村八分に遭い、とにかく他人から嫌われない立ち振舞いを心がけてきた主人公・湊。

 かつての親友から執拗な嫌がらせを受け、その親友が自殺した風評被害により登校拒否になった少女・菖蒲。

 そして菖蒲の幼なじみであり、自由奔放で人懐こい性格が人気も反感も買ってしまう学園のアイドル的存在・由井。

 ――ゲームが好きという共通点を持つ三人は、『バッドエンドを探せ』という部員を告発するような内容のゲームをきっかけに、とある事件の真相を突き止めていく青春ミステリ。Aの正体がわかった瞬間、この出会いはやはり必然であったんだとニヤニヤしてしまいました。いや、こんなん絶対好きになるじゃん。

 

 

 誰かを嫌うというのはとてもエネルギーのかかることだと思う。それこそ人によっては誰かを好きになることと同等かそれ以上のモノかもしれない。人間として生きる以上、老若男女関係なしに愛好と嫌悪は切っても切れない感情だ――そんな当たり前のことを、当たり前に言ってくれる作品だったと思います。

 メインキャラである湊、菖蒲、由井は誰かしらから等しく悪意を向けられている。それは失望であったり、嫉妬であったり、期待の裏返しであったり、事実から何の根拠もない噂まで様々なかたちで。好きだったものが嫌いになる瞬間はあっけなく、その愛が深ければ深いほど憎しみも根強い。その上彼らはうら若き高校生、活動の大半が学校という狭い箱庭の中で、そのもろもろに晒されるストレスは徐々に心を蝕んでいく。

 

 そんな中で自殺の真実を探りながらお互いを疑いつつも、かたちのないものと向き合い、時に受け入れ、時に拒絶する。

 嫌いな人間がいて、人から嫌われることもある。

 好きになっても、好かれない人もいる。

 それは至って普通のことなのだから。

 そんなビターな結論とは違って、お互いを守るために悲しいすれ違いを起こしていた菖蒲と由井が、原点に帰ったようなやさしさに溢れていたのが美しかったです。大事に想いすぎて見失うこともあるよねっていう。

 

 

 割とヘビーな過去を持つ主人公の湊がそれほど性根がねじ曲がらなかったのは、作中で唯一の良心とも言っていい湊のお爺ちゃんの存在だったと思います。彼は最後まで湊の味方であり、理解者でもありました。ミステリ部分には関わらないですが、人に嫌われることを恐れる湊の根幹的部分に説得力を持たせたキャラでもあるので結構重要な人物なんですよね。こんな孫とゲームで繋がれるようなカッコいい爺さんにおれもなりたい。

 

 イラストレーターは今をときめくしぐれうい先生です。

『彼女のL』から続投されましたが、最後の挿絵がめちゃくちゃヒロイン顔してて良かった。